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2017年03月21日
研究開発

「老香(ひねか)」の元となる成分を作りにくい酵母の研究成果を日本農芸化学会大会で発表

 日本盛株式会社(本社:兵庫県西宮市、代表取締役社長:森本直樹)と独立行政法人酒類総合研究所(広島県東広島市、理事長:後藤奈美)は共同で、老香の元をつくりにくい清酒酵母の開発を進めております。
その内容について、2017年度日本農芸化学会大会(京都:3/17~3/20)にて発表いたしました。

【背景・目的】
清酒を長期間保存すると、老香(ひねか)という劣化臭が発生することがあります。酒類総合研究所の研究により、老香の主要成分はジメチルトリスルフィド(DMTS)であること、DMTSの主要な前駆物質は1,2-dihydroxy-5-(methylsulfinyl) pentan-3-one (DMTS-P1)であること、DMTS-P1の生成には酵母のメチオニン再生経路のMRI1遺伝子やMDE1遺伝子の機能が関係していることが明らかになっています。
そこで私たちはメチオニン再生経路に着目することで、老香の元となるDMTS-P1をつくらない酵母が育種できると考え、そのような酵母を選抜する方法の確立を目的として研究を行いました。

【方法・結果】
MRI1遺伝子やMDE1遺伝子が機能せずメチオニンの再生がうまくいかない酵母を取得するには、5'-methylthioadenosine (MTA)をメチオニンに再生できない酵母を選抜すればよいのではないかという仮説をたて、育種法を検討しました。
清酒酵母の1倍体からMTAをメチオニンに再生できない酵母9株を選抜したところ、そのうち3株で老香の元であるDMTS-P1をほとんどつくることができないことがわかりました(図)。
これら3株について調べたところ、メチオニン再生経路のMDE1遺伝子、MRI1遺伝子が働かなくなった株がそれぞれ1株ずつあることがわかり、仮説の方法で目的の酵母を選抜できることが明らかになりました。




図:取得された酵母のDMTS-P1をつくる力の比較
印をつけた酵母は、老香の元をほとんどつくらないことがわかった。


【まとめ】
 老香の元になるDMTS-P1をほとんどつくらない清酒酵母を選抜する方法を開発しました。今後は酒造りに実際に使われている2倍体の清酒酵母でも老香の元をほとんどつくらない酵母が取得できるよう開発を続けていきます。

【研究の意義】
 DMTS-P1をほとんどつくらない酵母で仕込んだ清酒は老香ができにくいと思われます。もし老香ができにくい清酒ができれば、輸出などで輸送期間が長くなった際にも、老香の心配なく清酒を消費者の方に飲んでいただけるようになることが期待されます。

◆発表演題
老香前駆物質を生成しにくい清酒酵母の育種
◆発表者
日本盛株式会社:○若林 興、井上 豊久、中江 貴司
独立行政法人酒類総合研究所:池田 優理子、神田 涼子、磯谷 敦子、藤井 力
(○は演者)

(用語解説)
老香(ひねか):たくあん様のにおいで清酒では劣化を感じさせるにおいです。数カ月から2年程度で発生することがあります。従前は、貯蔵により生じる香りはよい香りも悪い香りも老香と呼んでいましたが、ここでいう老香とは、DMTSを中心とした清酒の貯蔵劣化臭を指し、数年の長期熟成により出てくるよい香とは分けて考えております1)

メチオニン再生経路とMRI1遺伝子・MDE1遺伝子:
メチオニン再生経路とは下図のような経路です。MRI1遺伝子・MDE1遺伝子はメチオニン再生経路の遺伝子で、これまでの研究から、この2つの遺伝子のうち1つを壊すと老香の元となるDMTS-P1がほとんどつくられなくなることが明らかになっています2)





(参考文献)
1. 磯谷敦子、宇都宮仁、神田涼子、岩田博、中野成美:醸協, 101(2), 125-131 (2006)
2. Wakabayashi, K., Isogai, A., Watanabe, D., Fujita, A., and Sudo, S.: J. Biosci. Bioeng., 116, 475–479 (2013)

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